今回で最後となる「暮らしの中でできる仏教的行い5選」ですがここで今一度おさらいしておきましょう。
- 不殺生(ふせっしょう) 殺生しないこと
- 不偸盗(ふちゅうとう) 与えられていないものを盗らないこと
- 不邪淫(ふじゃいん) 不正な相手と接触(性的な行為をしない)しないこと
- 不妄語(ふもうご) 嘘をつかないこと
そして今回の
5.不飲酒(ふおんじゅ) 酒類と(薬として以外の)薬物を口にしないこと
となります。 5選というか、仏道を歩む者は出家者でも在家者でもこれは最低限守らなくては心を育て、生きる苦しみを克服することは不可能なので守るべき、というより必然として守らざるを得ない戒めなのです。
不飲酒(ふおんじゅ)の意味
お釈迦様の時代、弟子(比丘、比丘尼)として修行する際にお釈迦様が取り決めた多くの戒律の中でも五戒は特に重要なわけですが、酒類の禁止というと一見、なんてことのない事項のようにも思えます。
だってそりゃあ、お酒なんてものは嗜好品ですから、必要最小限のもので生活し、修行に励む人々にとっては守るのも特別難しくもなさそうですよね。
それでも敢えて他の4項目と同等にこの酒類の禁止を入れているのは、それでもやはり重要だからです。
意味としては単純に「酒(アルコール類)を摂取しない」ということですが、逆に酒を摂取するとどうなるでしょうか。
世間一般に普通の人ならば酒はストレス発散であったり、円滑なコミュニケーションの道具としてみたり、多かれ少なかれあまり絶対的に悪いものとして見ている人は少ないと思います。
しかし仏教ではそうはいかないのです。
なぜなら仏教は真理に照らして、事実を頼りに幸福への道を切り開く教えだからです。
酒を飲むと人はどうなるか?
答えは「人は酒を飲めない」 というものでした。
つまり、どんなに酒に強いと思っている人でも必ず酒に飲まれていると言う真理があるのです。
ただでさえ、人間は無明という煩悩に覆われていて、これは「事実がありのままに捉えられない」という根本的な問題なわけです。
そのせいで私達はそれぞれ主観的に物事を決めつけるが故、様々な苦しみを生んでいるのです。
そして、それを克服しようという強い意志を持った人々が仏道に励みます。
なんとか生まれながらに持っていない「事実をありのままにとらえる能力」を開発して、育てるのがその唯一の方法だとお釈迦様は説いています。
ですから基本的に修行者は常に瞬間瞬間自分に起きていることに注意を払い自己観察していくことが大事であり、その移りゆく自分の心と体の変化に気づく事を教えられます。
このように言葉でいうと簡単ですがこれは普段、妄想ばかりしている私達凡人にはものすごく難しい訓練です。
慣れないうちは特に瞬間瞬間の自分の感覚をずっと辿っていく作業というのは極めて退屈でつまらないと感じるものなのは誰でもやってみれば分かります。
それでもそのように訓練を続けて余計な妄想をストップし、今、ここで、自分に起きていて、感じているありのままの感覚だけに集中していくと、心の汚れはやがて薄れていき、清々しい境地に向かえるというプロセスが仏教の瞑想といえます。(これを「気づきの瞑想」や「ヴィパッサナー瞑想」という)
しかもこれは寝ているとき以外、常に行うべきものですから、ただ事ではありません。
要するに、ただでさえすごく大変な修行をしているのにどうして、さらに思考が働かなくなるような酒を口にするか、ということです。
仏教をただの知識として覚えようとすると、この不飲酒戒について、都合良く「酔わない程度の蒸留したものなら良い」とか、「薬物は禁止とはいっていない」と間違った解釈をしてしまいがちですが、あくまでも実践するための教えであり、実践する者にとっては酒であろうが何であろうが、瞑想修行の妨げになることはすべてきっちり避けるのが当然なのです。
ですから、不飲酒戒においては他の4つの戒律と異なり、直接的に道徳に繋がるような戒律ではありませんが、他の4つを守るためには前提として守らなければならない戒律とも言えます。
まとめ
「暮らしの中でできる仏教的行い」と題して書いてみましたが如何だったでしょうか?
私はここ数年、仏教に興味を持ち、その教えに触れています。
そしてつくずく思うのは、仏教は宗教というより、とても論理的な心の科学であり、現代人の、物質にばかり重点を置いた世の中では皆無、に等しい唯一無二の教えではないか?と言うことです。
実践しなければ意味がないので私もいろいろと試していますが、白状するとこの五戒。単純な教えながら、守るのは簡単ではありません。
それでも、あきらめず、いつもことある事に意識していると確実に自分の生活が、ひいては人生がどんどん良くなっていくのは感じています。
老若男女誰にでもすぐにその場で始められる教えでもあるのでここまで読んでいただいたあなたも是非できることから始めてみてはいかがでしょうか?