私はこのブログではいつも、自分のことを「私(ワタシ)」と表現していますが、この日本語のいわゆる一人称、の使い方ってなんだかとても煩わしい、と感じる事はありませんか?
使い方、と言うか使い分けでしょうかね。 特に男性の場合、幼少期から大人になるまでや、大人になってからもシーンによって使い分ける方も多いのではないでしょうか?
今回は「第一人称」について、歴史や意味を簡単に確認していきます。
そもそも「一人称」とは?
一人称とは、人称のひとつで、自分の事を表す表現、と言うところまではなんとなく分かっていましたが今一度はっきりさせておきましょう。
人称:
人称(にんしょう、person)とは、文法の用語で、ある発話の話し手(speaker)および聞き手(addressee)という役割とそれ以外を区別するために使われる。
wikipediaより引用
話し手、書き手である「ワタシ」等の一人称を英語で言えばfirst person。
「first」は第1番目、と言う意味ですから、正式な人称の言い方では「第一人称」、「第二人称」、「第三人称」となるのが正しいようです。
その数、世界一!? 日本語の第一人称の豊富さ
ところで、日本語は英語圏の人々からすると世界でもかなり習得難易度が高い、とされていますが、その要因の一つは「漢字」だそうです。分かる気がします。
そして、他にもたくさんありますが、日常会話レベルに必要な「必須語彙数の多さ」というのもあります。
例えば英語の日常会話必須語彙数は2,600~2,700語。ロシア語では2300程度。英語以外の欧州では1000語覚えれば日常では問題ないとさえ言われている中で日本語はというと、実に7,000~10,000語もあるんだそうです。
そんな日本語ですから、第一人称の代名詞も山ほどあります。
時代や地域を関係なしにざっと挙げると
- 私 ワタクシ わたくし
- 私 ワタシ わたし
- 僕 ボク ぼく
- 俺(己) オレ おれ
- 儂 ワシ わし
- 手前 テマエ テメエ
- ワイ
- アタシ アタクシ
- アタイ
- アチキ
- アッシ
- ウチ
- オイラ
- オラ
- 我が輩 ワガハイ
- 小生 ショウセイ
- 其 ソレガシ
- 我(吾) ワレ
- 愚生 グセイ
- 小生 ショウセイ
等々、方言などもありますから数え切れないくらいあることでしょう。
ここが私達日本人にとって面白くもあり、悩ましくもあるところですね。
ここまでまとめると
- 第一人称とは、話し手、書き手の事。
- その話し手、書き手を表す代名詞は数え切れないほどある。
第一人称代名詞の歴史
第一人称代名詞は古く遡るとどのような移り変わりがあったのかとウェブ上を検索するとありがたいことに、とても分かりやすい表を発見しました。

出典元:https://style.nikkei.com/ (NIKKEI STYLE)
私(ワタクシ、ワタシ)
最も使われることが多い一人称の代名詞である「私」ですが漢字だと「ワタクシ」なのか、「ワタシ」なのかわかりません。
こういう所からして日本語はややこしい。日本語を学ぶ外国人はさぞあたまを悩ますことでしょうね。
そんな「ワタクシ、ワタシ」ですが、上の表からも分かるように先にあったのは「ワタクシ」の方で「ワタシ」は「ワタクシ」が砕けて使われるようになったようですね。
じゃあ元の「私(ワタクシ)」の意味を調べると・・・
私(し、わたくし)は、仕事場などの社会的集団の中における人間の属性と対比して、一個人としての属性を示すときに用いられる言葉である。
この意味における反対語は公(こう、おおやけ)である。例えば、「私用」は仕事に関係のない行動や物品を指し、「公用」はもっぱら仕事上の行動や仕事に用いる物品を指す。
wikipediaより引用
もともとは普通名詞の「個人」を指す意味としてだけ使われていました。現代でも「私事(ワタクシゴト)」のように、個人的な意味を示すときに使いますよね。
昔はそれだけの意味だったのが江戸時代頃から第一人称代名詞としての「わたし」として使うようになった、と考えるのが自然ですね。
「ワタクシ」をさらに崩して「アタクシ」と発音されることもあります。
これは江戸っ子のイメージで落語家の方が口にするのを聞きますね。明治から昭和時代に多かった様ですが今ではほとんど使われなくなっているでしょうか。
先日亡くなられてしまった桂歌丸さんが「あたくし~」と言っていたのが印象的です。
俺(オレ)
今ではもっぱら男性の間で使われている「俺(オレ)」ですが、これも元々は自分、と言う意味を表す普通名詞であった「己(おのれ)」から崩れて「オレ」となったと考える説と、「オラ」が転じて「オレ」となった説(関東以北)がみられます。
いづれにしても意外と古く、鎌倉時代からすでに使われていたんですね。
現代でも体育会系の人々などが自分のことを「自分は・・・」と言う場面がありますが「おれは・・・」も古くは同じような使い方だったわけです。
でもいつの間にか現代では「オレ」はちょっと雰囲気が違って、公の場や目上の人にはあまり使えない言葉ではありますね。
僕(ボク)
かつて「僕」は謙譲語としての意味合いが強かったようですが、それもそのはずで元々江戸時代以前では「僕」は「シモベ」と読み、男の召使いを指す言葉でした。
一定の期間住み込みで奉公する(働く)下男下女(ゲナンゲジョ)のことを指していたのです。《因みに女性に対して「僕(シモベ)」に変わる言い方では「妾(メカケ)」がありました。》
1860年代には謙譲性が低くなっていき、明治時代に入った頃から次第に書生(下宿等しながら勉学に励む若者)が好んで使うようになったとされています。
この辺り、たしかに親戚縁者の家に世話になりながら勉強する若者にとっては、薄れていたとは言え、謙譲性も残っていて、絶妙に使いやすい第一人称としての「僕(ボク)」だったのではないでしょうか。
また、「僕」は当て字で「ヤツガレ」と読む時もあり、現代ではほぼ使われませんが、かつてはこの場合、相手にへりくだる気持ちで自分を指す表現だったようです。
あまりにも当たり前のように使っている一人称代名詞ですが、私達のご先祖様は奈良時代には自分のことを「あ」、「わ」、「われ」、「まろ」などと表現し、それから現代まで、様々に変化してきたんですね。
何でも外国文化を自分達流に変えてとりこんできた日本人ですが、自分を指す言葉についてもこの通り、時代や地域で見事に違いが見られるものです。
まとめ
普段、何気なく使う、一人称代名詞ですが現代では「ワタシ」「オレ」「ボク」が定着していますね。
でも、きっと時代が進むとこれらも少しニュアンスが変わってきたり、全く違った代名詞が出てくる可能性はあります。
英語圏にも微妙な違いはあるのでしょうが、「I」だけで済めば楽なんですけどね。
結局、ワタシは今まで通り、書き言葉では「私」、話し言葉では目上の人や仕事相手やかしこまった場では「私」か「ボク」、それ以外では「オレ」を使いわけることでしょう。。。